<学習会報告>
若年性認知症の人と活躍のフィールドを共創する
日時:7月30日(土)14時から16時
ゲスト:GrASP 山崎健一さん
青葉区鉄町にある、横浜市で唯一の若年性認知症の支援に特化した介護サービス事業所
GrASPの代表取締役山崎健一さん(39歳)にお話を伺いました。
若年性認知症とは、40歳から64歳に発症した初老期認知症に、18歳から39歳までに発症した若年期認知症を加えた認知症の総称。
全国的に見ても初期のみ、中期のみというふうに一時期だけに限られた支援を提供する事業所が多い中で、初期から後期まで一貫して途切れのない支援を続け、その段階に応じて初期(要支援~要介護1・2)の方には働く場を、中期(要介護1~3)の方には趣味やボランティアの場を、後期(要介護3~5)の方には日常の生活能力の維持を、と、きめ細かい支援を提供しています。
山崎さんは精神科の作業療法士を経て、2015年に起業。
事業所である「トポス 和果」には、現在横浜市の9区、川崎市の2区から40名の方が介護保険サービスを活用し登録されていて、週2日から6日(平均は4日)通い、一日の定員を2単位24人として、作業療法士、看護師、介護職などのスタッフ19名が、毎日10名か12名体制でケアしています。
月~土の9時から16時まで開所、小集団での個別課題に応じたリハビリとなっていて、ウォーキング、ボランティア就労、体操、趣味などのグループ活動など活動は多岐にわたり、仕事としては、お弁当配達、お弁当箱の洗浄、チラシ折りと投函、駅前の花壇の整備、キッチンカーやマルシェの出店、畑の手伝いなどを、忘年会 外食などの楽しみの機会も積極的に作っているとのこと。
利用者の方は75歳を利用スタートの上限とし、50代~70代で平均年齢は64.6歳。
認知のハードルが高くなっている認知症の方の集まりの必要な要素として「同じは大きな安心感になる」として同世代、同性が多い、同じ悩みをもつ、価値観が近いなどの「等質性」を掲げられていましたが、若年性の認知症の方が80代90代の認知症の方と一緒のデイケアの空間では共有できるものがあまりないというお話を聴いて、確かに、と思いました。
男性のほうが発症率が高いと言われ、男性が8,9割をしめることが多い若年性認知症の事業所のなかで、男性24名に女性16名という構成も女性の利用者の方の安心感につながるのかもしれません。
山崎さんから見た「認知症」とは、「課題対処が不得手になるので心が枯渇しやすい」という状況なので、例えばどこかに行くとき、どうしたらいいかわからず、人に聞くのも難しいとき、バス停やあざみ野駅まで同行を申し出てくれる人がいるとほっとして社会生活を営めるので、周囲からそのような働きかけのある環境が大事であるとのこと。
ただ、若年性認知症はまだ若くてエネルギッシュなので進行が速いという難しさがあり、BPSD(周辺症状)として起きる不適応行動として、突然暴力を振るう、様々な被害妄想など、対応が非常に困難な事例が、鎮静化のために投薬やご家族と引き離しての入院治療が必要だった事例も含め紹介されました。
これは山崎さんが作業療法士として精神科に勤務されていて、緊急な事例への対処や、薬の処方などの知識があったから対応できたのだと思いましたが、ただ、これまで7年間のとりくみのなかで、BPSDは登録された方105人のうち22人、5人に1人しか現れず、そのなかでも上記のような激しい症状が出るのはその半数、全体の1割にすぎないそうです。
ご家族の交流会を開催し、ビジネスチャットで薬の相談も含めご家族と密に連絡を取り合い、ゆとりがなく追いつめられる状況に陥らないようにと心がけているが、なかなかご家族がご本人の世界を認めて受容できる段階に到達するのは難しいとのこと。
当事者とのかかわりのポイントとして、まず
- 笑うことによるセロトニン的幸福
- 触れあいつながることによるオキシトシン的幸福
- 何かができた達成感によるドーパミン的幸福の三段階で幸福を積み上げることができる環境の整備を心掛け、また、当事者が力を発揮するために、何かをしてもらうにしても「●●してください」ではプレッシャーになるので、ストレスにならず自発的に力が発揮できるような環境設定を心掛けているそうです。
「やさしい街あざみ野実行委員会」でウォーキングフットボールやゴミ拾いウォーキングなど、「萬駄屋」さんのご協力でおこわづくりと出店など、地域で出番やつながりの機会を作ってもらうのはなにより嬉しいとのことでした。
熱の入ったプレゼンを聞いて、後半の質問タイムには次々と質問が途切れず。「若年性認知症に特化した事業所を開設したのはなぜですか?」の質問に対しては、リハビリの仕事をしていて、対象に入れ込みすぎと周囲から言われて、とおりいっぺんの支援しかできないなら起業したいと思っていたこと、鬱の方たちの復職支援をしていたのでリワークで起業しようと考えたが、類似の事業所はほかにもたくさんあった中で、訪問リハビリでバイトをしていたときに出会った若年性認知症の当事者の方から、どこにも行くところがないことを聞いたのがきっかけだったとのこと。精神科での経験や薬の知識、自分のヤングケアラー当事者としての経験があったので、根拠のない自信があり(笑)、なんとかなると思った、と。
「若年性認知症と診断されてから、どれくらい時間をへて、GrASPにたどり着くか?」の質問に対しては、当初は発症して7,8年たっていた方もいたが、いまは横浜市に若年性認知症コーディネーターが3人いて、そちらからの紹介があるので、診断されて3か月で来られる方もいるとのことでした。あとで調べてみたら、2015年に厚生省から「若年性認知症コーディネーター配置のための手引き書」が、2020年に東京都から「若年性認知症の 本人の通いの場をつくるガイドブックー事業所における実践ポイント」が出ているのを発見。このところ若年性認知症への取り組みが進んで、理解が進んできているとはいえ、私たちも知らないことが多く、一般への周知はまだまだの状況ではないかと思いました。
若年性認知症は10万人に対して発現率が50.9人とのことで、青葉区31万人で150人はいる計算になりますが、青葉区からは現在11名の方が利用されているにとどまり、いずれ横浜市の4,5区に一つの事業所が必要ではということで、二つ目を開所予定とのことで、この先の挑戦が楽しみでした。